ジョセフ・マーフィー博士(5分野の博士号を持つ)は潜在意識に関して幅広く講演活動を行い欧米のみならず日本でも有名な方です。その著書は数十冊以上に及びますが、『眠りながら成功する』と『眠りながら巨富を得る』の2冊をお勧めします。この2冊の特徴はといえば、非常に豊富な事例をもとにさまざまな角度から、肯定的思考には肯定的結果を、否定的思考には否定的結果をもって応える潜在意識の働きと、その潜在意識を活用して健康の回復、経済的な豊かさ、人間関係の調和などを達成するための実践方法が大変分かりやすく説かれていることです。
特に『眠りながら成功する』の第6章には8つのメソッドが事例も交えて簡潔に提示されています。「心の映画法」「ボードワン法」「睡眠法」「感謝法」「肯定法」「理づめ法」「絶対法」「断定法」の8つですが、最初にこの8つのメソッドを頭に入れてから、マーフィー博士の著書を読むと、この事例はこのメソッドによるものとか、この事例はこれとこれの二つのメソッドを用いているといったことが分かり、理解がよりいっそう深まるように思います。また、自分に合った実践方法を見つけるのにも役立つかもしれません。
なお、マーフィー博士の著書を読むうえで留意すべき点の一つは、他の多くの類書と同様に心の2層構造をベースに記述がなされていますので、深層意識(ユングのいう個人的無意識)と潜在意識(ユングのいう集合的無意識)の区別が必ずしも明確ではない箇所がたまにあることです。しかし、些細なニュアンスの違いにすぎず、本書の価値を損なうようなものでは決してありません。
留意点の二つ目は、努力は不要というニュアンスの記述がところどころに出てきますが、これは好ましくない現状に焦点を当てて自我力でそれを何とかしようとすることの戒めであって、正当な努力を否定するものではないことを理解しておく必要があることです。エミール・クーエが説いた「努力逆転(逆努力の法則)」という言葉がありますが、これに陥らないようにという意味合いです。「努力逆転」とは否定的な状況や状態を想像して、そうならないように意志の力で何とかしようと努力すればするほど、かえってそれを引き寄せてしまうということですが、このような努力は確かにすべきではないといえます。意志力は肯定的な状況や状態に思考を集中させるために使うべきものであって、否定的な結果を生じさせないように使うものではないからです。創造の力を持っているのは思考であって、意志ではないということです。また、思考(関心)を向けたものは引き寄せの法則によって自分に引き寄せられてくることを知っておくことも大事です。
『眠りながら成功する』(大島淳一訳 産業能率大学出版部刊 初版1968年)
原題は『The Power of your Subconscious Mind』(1963)
『眠りながら巨富を得る』(大島淳一訳 三笠書房(知的生き方文庫))
原題は『Miracle Power for Infinite Richs』(1972)