5-4-1-11.第11章「治癒(ヒーリング)」

治癒(ヒーリング)というテーマは、多くの書き手によってさまざまに論じられていますが、それらのすべてが注目に十分値するものです。しかし、この講義の目的は、「思考の創造的力」を意識的に利用するための一般的な原理を受講者の皆さんに教えることにあり、それを個別具体的に応用するための方法論を述べることではありません。そこで、現在使われているさまざまな精神的治癒(メンタル・ヒーリング)の方法に共通すると思われる原理原則を見ていくことにします。

それぞれの精神的な治癒方法は、それ独自の特殊性からではなく、精神世界における高次の法則を十分に適用することによって、その有効性を得ており、すべての精神的治癒者(メンタル・ヒーラー)たちが等しく強調している原則は、治癒(ヒーリング)の基本は信念の変化にあるということです。この治癒の得られるプロセスは次のとおりです。

主観的な心(潜在意識)は私たちの内にある創造的な力であり、客観的な心(表面意識+深層意識)から印象付けられたものは何でも創り出します。潜在意識が印象として受け取るのは、客観的な心の思考です。思考とは信念の表現であり、それゆえ、潜在意識が創り出すものは何であれ、私たちの信念を外的に現象化したものに他なりません。

今、私たちは信念をよきものに変えようとしているわけですが、古い信念が偽りであり、新しい信念が真実であることを確信し得る確固たる根拠なしには、信念を変えることはできません。ところで、この根拠は、私がこれまで説明の努力をしてきた原因と結果の法則の中に見出すことができます。

病気を引き起こす間違った信念とは、この世的な条件や状態、環境が第一の原因であると信じることです。原因と結果の法則を知れば、第一原因はただ一つしかありません。それは、私たち自身の思考です。だからこそ私は、思考の立脚点を、時間や空間に関連付けてしか物事を認識できない相対的な自己(肉体人間・この世的視点)に置くのと、時間や空間の制約を一切受けない絶対的な真理(霊的存在・あの世的視点)に置くのとでは、大きな違いがあると主張してきたのです。

さて、絶対的に、あるいは無条件で言えることは、私たちの本質は純粋な生きとおしの生命(霊的存在)であるということです。それゆえ、いかなる種類のこの世的な条件にも妨げられることはなく、したがって病気にかかることもありません。この考えが単なる知識としてではなく、確信として腑に落ちれば、私たちの潜在意識はそれを外部に現しますので、病気とは無縁になります。(訳注:ジェームズ・アレンは単なる知識を頭の信念、確信として腑に落ちた知識を心の信念と呼び、潜在意識へ伝わり現象化するのは心の信念の方であると述べています。)

しかし、私たちが病気とは無縁にならないのは、人生の中で、病気はそれ自体が実体のあるものと思い込んでいるからです。すなわち、実は、病気とは単に正しい第一原因(人間は本来健康なものであるという信念)を持てないために生じる否定的な状態にすぎないのにもかかわらず、病気の実在性が病気の第一原因であるかのような誤った信念を持ち続けているからです。

幼少時から深く染みついたそのような信念は即座には根絶できません。そのため、精神的治療後しばらくは患者の健康が改善されても、また以前のような症状が出てくるということがよくあります。それは、自分の思いの創造的力に対する正しい信念が、まだ心の最も奥深いところにまで浸透する時間がなく、部分的にしか入っていないからです。しかし、それも治療の経験を重ねるごとに、正しい信念を強く持つことができるようになり、最後には永久的な治癒がもたらされることになります。

このように、神から創られた存在(神の子)としての本当の自分に関する真理知識が身につけば、患者自身が自分で自分を治療することができるようになるものなのです。

しかしながら、「すべての人にこのような知識があるわけではなく」、また、誰もが皆自分自身にうまく治療を施すことができるほど、この知識を完全に理解しているわけでもありませんので、このような場合には精神的治癒者(以下、単に治癒者と称します)の助けが必要となります。治癒者と患者の唯一の違いは、治癒者は自己の表面意識と潜在意識を適切にコントロールすることができるのに対して、患者はまだその域に到達していないことです。治癒者がすることは、自分の表面意識を患者の表面意識に置き換えることによって、患者の潜在意識への入り口を見つけ、患者の潜在意識に完全なる健康の暗示を印象付けることです。

ここで、治癒者はどのようにして自分の意識を患者の意識に置き換えることができるのか、という疑問が生じますが、その答えは、これまでの章で述べてきた非常に抽象的な原則の実践的な応用にあります。

私たちの通常の自己概念は、自分の人格と他人の人格は全く別のものであるというものですが、これは間違いです。人格の間には、そのような厳密な境界線というものはなく、それは意志によってコントロールすることが可能なものなのです。実際、一時的に両者の境界線を完全に取り除いて、二つの人格を一つに統合することもできます。精神的治療において治癒者と患者の間で行われる相互作用は、この原理に基づいています。

まず、患者は治癒者の精神的な力を受け入れるために自分の人格の壁を取り除く必要があります。一方、治癒者の側も人格の壁を取り除く必要がありますが、両者の違いは、患者が治癒者の意識の流入(受け入れ)のために自己の壁を取り除くのに対し、治癒者は意識の患者への流出(受け渡し)のために行うことです。かくして、両者の心の共同作用によって二つの人格の境界が取り除かれ、意識の流れの方向が決定します。つまり、自然界の普遍的法則である「流れは常に物質が充満した空間から希薄な方へ」に従って、積極的に与えようとする治癒者から、受動的に受け取ろうとする患者に向かって流れるのです。この治癒者と患者の間の精神的な境界を相互に取り除くことを、両者の間にラポール(交流)を確立するといいます。

これは、以前の講義で述べた「純粋な精神(神の光)はすべての点に同時に存在する」という原理の、最も価値のある実用的な応用例です。この原理によって、治癒者は自分と患者の間の人格の境界が取り除かれたことに気づくやいなや、患者の潜在意識にそれがあたかも自分自身のものであるかのように働きかけることができるのです。なぜなら、両者の本質は純粋な精神(神の光)であり、自己を消し去ることで両者は同一の存在となり、一点に合わされるからです。

両者が一点に合わさることによって、治癒者の客観的精神(表面意識)が患者の主観的精神(潜在意識)に対して健康の暗示を与えることができるようになるのです。だからこそ私は、純粋な精神、つまりいかなる形態にも特殊化されていない状態の精神(未分化の神の光=無我)と、ある形態に特殊化した状態の精神(分化した神の光=自己)とを区別することにこだわったのです。

患者の病気の状態に心を集中すると、患者を自分とは別の人格として考えていることになり(神の子の本質ではなく、相対的・客観的でしかも病的な状態の存在として見ていることになり)、患者を自分と同じ純粋な精神として見ていないため、治癒者は患者の潜在意識に効果的に立ち入ることができません。それゆえ、治癒者は、患者の症状の考察や、患者の肉体的な人格から自分の思考を引き離し、患者を純粋に精神的な存在(神性を有する無我なる存在・神の子)と見做さなければなりません。

人間は、本来、いかなるこの世的な条件にも全く左右されることなく、純粋な精神のもつ(神の子としての)生命力と知性を最善の形で表現することができる存在なのです。この理解のもとに、治癒者は、患者自身が、自分の内なる力で健全な状態を外在化できることを強く肯定します。この肯定が暗示として患者の潜在意識に印象づけられることによって、患者の潜在意識は自身が何をなすべきかを完全に認識し、この暗示を現象化するように働きます。こうして病気が健康に取って代わられるのです。

以上の記述では、私は、患者が意識的に治癒者に協力しているケースを想定しています。この協力を得るために、治癒者は、患者がまだ精神科学の一般原則を知らない場合には、通常、精神科学の一般原則を患者に教えます。しかし、これは必ずしも当を得たものではなく、いつも可能なことではありません。時には一般大衆の持つ誤った常識と大きく異なる真理を述べることで反発を受けることもあります。この患者側の反発は、治癒者が最初に取り除かなければならない患者の意識的な人格の壁を強化しがちです。このような場合には、欠席治療(遠隔治療、その場にいない人によって行われる治療)がきわめて効果的です。

第1章において「精神と物質」というテーマで私が述べたことをすべて理解していれば、精神的な治療においては、時間と空間は何の意味もないことがおわかりでしょう。なぜなら、精神的治療におけるすべての作用はこれらの制約条件(相対的な時間や排他的な空間)のない絶対的な領域で行われるからです。そのため、患者が治癒者の目の前にいようと、遠く離れた国にいようと、まったく問題にはなりません。

このような状況下における、精神的治療の最も効果的な方法の一つは、睡眠中の治療であることが経験的に分かっています。なぜなら、患者の全身が自然にリラックスした状態になっているため、それが治癒者に対して意識的に逆らうことを防ぐからです。また、同じ法則により、治癒者は自分自身が睡眠中の方が、起きているときよりもさらに効果的な治療を行うことができます。眠る前に、自分の潜在意識に、患者の潜在意識に対して治療の暗示を伝えることをしっかり頼み込むと、患者と治癒者の表面意識が鎮まっている間中ずっと、この暗示が実行されるのです。この方法は、科学的原理を説明できない幼い子供や、離れた場所にいる人にも適用できます。

実際、患者と治癒者が直接会うことで得られる唯一の利点は、口頭で患者に指示を与えることができる場合や、患者が催眠療法知識の初期段階にある場合で、治癒者が目の前にいることで、治癒者がいなければできないことが今行われているのだという印象を与えることができる場合です。それ以外では、患者の同席、不在は全く関係ありません。

受講者の皆さんは、潜在意識がその治療効果を発揮するうえで、表面意識の助けは必要としないことをつねに覚えておく必要があります。潜在意識の働きは大宇宙に偏在している全知全能の神の創造的な力によるものであり、この世的な人間の助けを必要とするものではありません。

なお、睡眠状態における遠隔治療は、テレパシー、透視やその他、潜在意識が時折見せる超越的な能力へ至る一ステップに過ぎません。これらの超越的な力も実は、私たちが通常目にするこの世的な重力や引力などの法則と同じくらい正確な法則によるものなのですが、ここに踏み込むことは、すべての霊的現象の根底にある基本的な原理原則を示すことを目的とした本書の範囲には適切に収まり切りませんし、これまで述べてきたことが明確に理解できるまでは、私たちの内なる力についてこれ以上踏み込んでも受講者の皆さんのプラスにはなりませんので、これについての言及は割愛します。

しっかりとした知識の基礎と、その実践的な応用の経験なしに、内なる力について深く踏み込むと未知の危険に身をさらすことになりかねませんし、未知の領域への前進は、既知の立場からのみ行うことができるという科学的原則にも反することになります。浅い理解のまま先に進めば混乱に陥りかねないこともよく理解しておいてください。

第12章「意志」はこちら

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