思考の力を一言で言い表せば「思いがすべて」ということです。「思いがすべて」とは、「私たちが考えていること(思い・思考・思念)が、私たち自身と私たちの人生環境を形作っているのであって、例外はいっさいない」という真実を指す言葉です。
この真理については、釈尊をはじめ、西洋哲学の祖ともいえるソクラテス、ローマ五賢帝の一人マルクス・アウレリウスやアメリカの哲学者ラルフ・ワルド・エマーソン等の古今東西の先師先哲が異口同音に説いておられます。
そして現代にあっては、最先端の量子力学の分野においてその真実性が科学的に裏付けられつつあるようですが、この点については、すでに「フレミングの法則」で有名なイギリスの物理学者ジョン・アンブローズ・フレミングが120年以上も前に英国王立研究所で行った講演で、「すべての現象(物質化)の元となるエネルギーは、その究極的な本質において、私たちが心や意志と呼ぶもの(思考・思念)の直接的な作用の表れとしてでなければ、私たちには理解できないかもしれない<Thomas・Troward著『The Edinburgh Lectures on Mental Science』 (1904) Chapter 5 の私訳より抜粋>」と述べています。
その意味するところは、すべてのものの素となる唯一の目には見えない原始物質(神の光と呼ばれたり、霊子と呼ばれたりします)が思考・思念を受けると素粒子となり、原子となり、分子となって、やがて目に見える形を取って三次元の世界に姿を現すようになるということです。これを思考の現象化あるいは物質化と言います。
実は「思いがすべて」という真理は大宇宙の根本法則とでもいうべき「原因と結果の法則」に他なりません。目には見えない思いや考えが唯一の原因であって、目に見える現実(私たち自身の健康状態・経済状態・人間関係など)はその結果にすぎないということです。
したがって、自分にとって不満足な結果(現実)を変えたければ、思い(原因)を変えさえすればよいということになります。ところが私たちはともすれば、思い(原因)はさておき、とにかく現実(結果)を変えたいと考えて四苦八苦しがちです。この本末転倒の対応の誤りをジェームズ・アレンはその著書『As A Man Thinketh』(1902年/日本では2003年に『「原因」と「結果」の法則』として大変分かりやすい訳でサンマーク出版より出版されています)のなかで次のように述べています。
「私たちが手にするものは、私たちが手にしたいと願い、祈るものではなく、私たちが公正な報酬として受け取るものです。私たちの願いや祈りは、私たちの思いや行いがそれと調和したものであるときにのみ叶えられるのです。
この真実の光のもとで眺めたとき、「環境と戦う」とは、どういうことなのでしょう。それは、自分自身の内側で「原因」を養いながら、外側の「結果」に戦いを挑むことにほかなりません。その「原因」は、意識的にめぐらされている不純な思いかもしれませんし、無意識のうちに手にしている弱さかもしれません。そして、たとえそれが何であっても、それは、それをもつ人間の環境を改善しようとする努力を、執拗に妨害しつづけます。よって、「原因」こそがまず改善されなくてはならないのです。
人々の多くは、環境を改善することには、とても意欲的ですが、自分自身を改善することには、ひどく消極的です。かれらがいつになっても環境を改善できないでいる理由が、ここにあります。
自分自身を改善するということは、真の意味での自己犠牲を払うということにほかなりません。真の自己犠牲とは、心の中からあらゆる悪いものを取り払い、そこを良いものだけで満たそうとする作業です。」<坂本貢一訳『「原因」と「結果」の法則』(2003年)サンマーク出版P.27>
また、エイブラハムと名乗る霊人グループからの啓示を受けてアメリカ人のヒックス夫妻が著した『The Law of Attraction』(2006年/邦題『引き寄せの法則-エイブラハムとの対話』)でもまったく同様のことが述べられています。その内容は次の通りです。
「あなたがたの世界にある病院には、不適切な思考の結果をなんとかしたいという人たちがあふれている。その人たちは意図して病気を創り出したのではないが、それでもやはり思考と期待を通じて、自分で病気を創り、それからその病気という結果をなんとかしようとして病院に行く。それにわたしたちが見るところ、毎日大勢の人が自分の行動をお金と交換している。それは、この社会で自由に暮らすにはお金が不可欠だからだ。だが、ほとんどの場合、その行動は楽しくない。調子の乱れた思考の結果を、行動によってなんとかしようとしているにすぎない。
(中略)
だから、望むものを手に入れようとしていきなり行動に走るのではなく、「望むものが実在すると考えなさい」とわたしたちは言っている。望むものをビジュアル化し、はっきりと見て、期待する - そうすればそれは実現する。自然に道がわかり、インスピレーションが与えられ、完璧な行動に導かれ、求めるものにつながるプロセスが開かれる。それなのに、わたしたちが話していることと世間の大半の人たちのやり方には大きな違いがある。」<吉田利子訳『引き寄せの法則-エイブラハムとの対話』(2007年)SBクリエイティブ(株)P.137>
なお、「思いがすべて」の意味を論理的に理解するうえで、上述の『The Edinburgh Lectures on Mental Science(精神科学に関するエジンバラ講義)』の第9章「原因と条件」が大変参考になります。この章においてトーマス・トロワードは、原因〔思考〕と条件〔三次元への思考の顕現の中間プロセス〕と結果〔最終的な三次元への思考の顕現〕の関係性について詳述しています。「原因と結果の法則(別名、縁起の理法)」の知的な理解の一助になる一章です。
さて、ナポレオン・ヒルの代表作『思考は現実化する』の題名も示すとおり、健康も病気も、裕福も貧乏も、人間関係の調和も不和も、すべては思いの現われであり、この真理を知ることが願望実現の大事な要素の一つとなります。
そこで、以下「思いがすべて」について、次の三つのテーマでもう少し掘り下げてみたいと思います。
1-1 神はなぜ宇宙と人間を創られたのか
1-2 神の思考の力と人間の思考の力は同じか否か
1-3 創造のプロセス